生前葬に出席する 4

◆先生が私の隣に来た。
遠くから出席したことのお礼を言われる。
涙がでそうになり、おもわず、
「先生、握手しましょう」と言い、先生の手を握る。
暖かく柔らかな手に安堵する。
「最後まで元気でいてくださいね」と伝える
うんうんと先生は何度も頷いた。
持参した5枚の写真を先生に見せる。
小学6年になった娘の写真に、目を細める。


◆「私はね」と先生がテーブルの皆に向かって話す。
英語や数学を教えることを通して、
皆に生き方を伝えたいと思っていたんだけど、
本当はね、皆から教わることの方が多かったよ。
私はね、一つ自信のあることがあってね
みんなの本当の個性、つまりね、
人はいろんな側面を持っているけれど、
すべてを取り払って、最後にのこるみんなの個性、
それを僕は知っていると確信しているんですよ。
会話の量や接点はみなさんの親御さんの方が多いだろうけど
でも、本当の個性を知っているのは私だと思います。


◆そうです、先生。
きっとそうだと私も思います。
私たち、一人ひとりが先生と交わした会話の濃さ、密度は、
親との会話をはるかに凌いでいるでしょう。
一人の人間の基礎を作り、個性の核が固まっていく時、
12歳から18歳前後まで、その期間を先生と過ごしたのだから。
改めて、お礼を伝える。
先生、ありがとう。
先生と出会えたこと、本当に「有り難く」
貴重な時間でした。
本当にありがとうございました。
どうぞ、最後の最後まで、健やかに過ごしてください。