ゲド戦記
20年以上も前に読んだ本の再読。「影との戦い」と「こわれた腕環」。
「影との戦い」
ゲドは,自分にふしぎな力がそなわっているのを感じ,真の魔法を学ぼうと,魔法使いの学校に入る.進歩は早かった.得意になった彼は,禁じられた呪文を唱え,死の国の影を呼びだしてしまう.影を呼び出したゲドは、影におびえつつすごすが、やがて、逆に影を追いつめるための航海へと出る。
「こわれた腕環」
アースシー世界では、島々の間に争いが絶えない。力みなぎるゲドは、平和をもたらすエレス・アクベの腕環を求めて旅し、暗黒の地下迷宮で巫女の少女アルハと出会う。アルハは、名を持たぬものとして、神殿に使える巫女。
アルハはゲドによって光のもとへと抜け出し、本来の名前を取り戻す。
20年以上前に読んだ時は、「こわれた腕環」にとても感動した。
おそらく、当時の私にとって「女性であること」や
「自己(つまり名を持つものとして生きること)」が
大きなテーマとして存在していたからだろう。
今回、改めて読み直して思ったのは、
ゲド戦記は「影とのたたかい」だけでいいということ。
しっかりとした構造、正統派ともいうべき構成。
ゲドの若い頃の傲慢さもよくわかるし、
最後の航海に出たゲドの島巡りは神話を思い起こさせる。
最後に影と向かいあって、ともに「ゲド」と叫ぶシーンは
わかっていても、やはり感動する。
一方、こわれた腕環は、まったく共感できなくなっている。
光のもとへ出ることになるアルハだが、彼女の主体性はない。
神殿の外にでる決意をしていないので、
失ったものも、また、結果、得たものも、
彼女にとっての価値が感じられない
アルハはこの後、魔法使いの下でしばらく生活をしたのち
魔法を学ぶことを捨て、普通の男と結婚し、一男一女をもうける。
やがて、子供は成長して家をでてゆき、夫は先立ち、後家となる。
そして、平和と秩序を回復するために全力をだしきった戦いから戻ったゲドと再会する。
かつての大賢人ゲドだが、全ての力を出し尽くしたため、彼は心身ともに衰えた一人の初老の男になっていた.
これがシリーズ最後の「帰還」の冒頭。
この本は出版された時に購入したものの、きちんと読めないままにしておいた本。
1,2を読んだ流れで、「帰還」も読了。
正直言って、読まなければよかった。
あまりにも暗く、ひどい話だと思う。
ともに年老いたゲドとテナーが結ばれ、テナーが養育していた子供が
太古の魔法の血を引くものだったという展開も、なんとも薄い。
ゲド戦記はフェミニズム視点で語られることが多いが
「帰還」のどこに解放があるのか、どこに光明があるというのか。
戦いで力を使い果たしたゲドを、
なぜあれほど弱弱しく卑近に描写する必要性があるのだろう
なんとも読後感の悪い本だった。