朱川湊人『花まんま』

花まんま
http://book.asahi.com/review/TKY200506070256.html

昭和30年代の大阪を思い出させる話が並ぶ。


この時代の一時期を大阪で過ごした。


農地と繊維工場、
工場の下請けをする家。
2軒続きの長屋の片方に織機を置き、
夫と妻、その兄弟が安い下請け仕事をしている。
さらにその家から賃仕事を請負い、
大きな袋に山ほどのパンツを詰めて
家に向かう主婦たち。
ゴムひもを通す内職をしている。


農家と繊維工場で働く人、
そして内職をする主婦は日本人で
工場の下請けを家兄弟でやっているのが朝鮮人
そういう家は必ず川向こうにあって、
川に面した水道場で大きな盥で洗濯をする。
子どもは川向こうに行ってはいけないといわれる。


知恵遅れの玉さんは眇めで、あばらがすける薄い体に
色のさめたシャツをきて、
壊れた乳母車に洗濯のりを積んで売り歩く
玉さんの母親は80才前後だろうか、家で寝たきり。
玉さんに母親がいることを知っている家は
玉さんから洗濯のりを買う。
少し離れた家は、母親がいることを知らないので
玉さんから洗濯のりを買わない。
買わない家は、公団住宅に住む人たちで
買う家は、借家に住む人たち。


見えない境界線が幾重にも張り巡らされ
そうして、上下左右に切り取られた社会が重なって
滓のようによどんだ風景。


花まんまは、そんな時代の、そんな場所の物語