重松清『その日のまえに』

重松清その日のまえに」が届く

その日のまえに
現代の家族を描く作家である
重松清の最新連作短編集のテーマは
「死」。

身近な人の突然死や末期がん告知に際して
家族や友人たちは何を思うのか。
その日に向かって、何をするのか
身近な人を失ってしまったその日の後に
何を思うのだろうか。


末期がんで妻を失った主人公は
妻の手紙を持ってきた看護師に対して
「その日」は彼女が死んだ日ではなく
別の日だったような気がすると話す。


この話を読んで、「そうだな」と感じる。
私の父はクモ膜下出血で倒れてから
1週間後に、意識を戻すことなく他界した。
すでに20年近い年月がたったが
今も思い出すのは、父が死んだ、その日ではなく
休日の早朝に母から電話で父が倒れたと知らされた時のことや
他界後、しばらくして買い物に出たときに
デパートにかかっていた「父の日」の案内を見て、
「もう贈る相手もいなくなってしまった」と思った時のことだ。
いずれも、父の死を覚悟した時と、それを実感した時といえるだろう。
現実的に他界した日よりも、私にとっては印象深い。


短編集の各編の登場人物たちは、
最後に置かれた3編に、登場してくる。

息子2人と主人公が、
「母」や「妻」であるその人の死を迎える描写には、
子供の年が近いせいか、
死んでゆく彼女に自分を重ねてしまい
涙がでてしまった

妻が夫に残した手紙の文面も、
こんなものをもらったらたまらないだろうなと
思う反面、あまりにも奇麗事で嫌だなとも感じる

小説が「絵空事」という意味ではなく
私自身は自分の死に対して、そんな距離は持ちたくない
と思うということだ。

連作の最初の話では
不死の病で入院した女の子が、そのキツイ性格が災いして
友達からも心からは心配されない話がある。
寄せ書きをもって見舞いに来た同級生に対して
「小説を読んでいるから」と待たせて悪態をつく
彼女の精一杯の抵抗が、この本全編の中でもっとも生々しく、
私自身にも近いように思う